ハーメルンのバイオリン弾きと言う「紙芝居」を是正して欲しい件

本作を語るには本作を見るのが妥当なのだが、予備知識があっても無駄ではないだろう。
放送当時、「全話をリアルタイム」で見た私だから書けることもある。
過去最高の「酷評」と言っても過言ではない。

ハーメルンのバイオリン弾き
原作:渡辺道明 連載:少年ガンガン 連載:1991年4月(創刊号)-2001年2月号
アニメ監督:西村純二 脚本:今川泰宏 CD:中嶋敦子 制作:ディーン

本作はテレビ東京系(局により時間が異なる)17時(午後5時)から放送されていた作品である。

本作の特筆すべき点は「かみしばい」である。
とにかく、「動かない」。アニメーションなのに動かない。動画なのに「動かない」。
絵は崩れてない、むしろ丁寧に書かれていて綺麗である。蔑称で使われる「ヤシガニ」などではない。だが、動かない。だから思った。

「なに、これ?」

1話をみた時の率直な感想であった。
監督は子供時代に見た紙芝居の現代版でもやりたかったのだろうか・・と疑うほどの静止画の連発であった。音響や音楽が悪いわけもなく、美術背景に問題もなかった。とにかく、「動かない」のだ。

最初は、1話、2話程度の「おふざけ」かと思っていたが、このstop move actが1クール続いた。毎回、毎回が「1カット」動かしたら3~4カット静止画とかいう「トンデモ・ザンシン」な手法を用いて物語を進め、原作特有のギャグはほぼ「完全」カット。シリアスにシリアスを加え、悲劇と悲劇を混ぜ合わせて、そしてシリアスに繋げるという原作を完全無視した「頭がおかしい」事をやったのが本作である。

本作はアーリア人系に由来するドイツの「ハーメルンの笛吹き男」の伝承を部分的に捩っただけのオリジナル作品であるが、それは作者成りのユーモアであり伝承とはユニゾンしない。
本作は「少年漫画らしくストーリーは重厚にまっすぐ進めながら、重くなり過ぎないようにコメディ・ギャグを練りこませ巧みなバランスで物語を進めて行く」と言う少年誌の王道と言ってよい小気味良いファンタジー作品である。この「本道」と「脇道」があってこその本作である。

だが、アニメは本作を中和させる「ギャグ」の部分をごっそりと削いでしまった。結果、作品はシリアスだけの重たい展開が続き、しかも(絵が)動かない、(話が)進まない、(キャラが)弾まないの三拍子で視聴者を辟易とさせるシーンが続いた。
それでも、本編(原作準拠)に移行するだろうという視聴者の期待は完遂する事なく話数は進んでいく。
普段は作品にケチな事を滅多に言わない姉に本作を見せたら、「これは・・」と絶句したのは今でも印象深い。姉も原作を十分に知っていた。

本作は2クール25話続いたが、OPやED、劇中曲など『音楽に関する部分』と『作画』に関しては他作品と比較しても申し分無かった。だが、ストーリーに関しては初志貫徹を貫くほど徹底的に重たく「(自分自身)よく、最後まで見たな」と思うほどの歪曲ぶりであった。当時の放送時間にやる内容でも今考えると無かった。『漫画のキャラだけ使ったオリジナルアニメ』と揶揄されるのにも合点が行く。世辞にもストーリーの完成度が高いとは言えなかった。これでは作者が余りに気の毒過ぎて長期に渡りリメイクを望んだものである。

2クール目から無残な紙芝居は無くなり、それなりに動きのある「アニメ」にはなったが話が原作とは別物レベルであったので私個人の評価は非常に低い。タイトルに準じ、音楽関係は良かっただけに原作の徹底的な改「悪」は悔やむところである。企画者やプロデューサーは何のためにいるのだろうか?疑問に感じた若き日の当時である。

本作は「日本アニメーション(制作会社)」主導の映画版も存在するが、そちらは原作に準拠しており完成度も非常に高い。原作を見てきた私も映画館まで足を運び喜んでみた。だからこそ、テレビ版の改変具合には疑義を感じざるを得なかった。
「視聴者が喜んでこそ、喜ばせてこそのアニメであり、サプライズ・フィルムを作りたいなら映画成りOVA(私はオリジナルDVDも同ブルーレイもOVAで括っている)でやれば良い」と言うのが私の見方である。2クールかけての実験場は余りに酷すぎる。そもそも、原作ファンに対しての失望を念頭に置けないなら最初からアニメ化などしなければ良い。原作と全く違うストーリーを誰が望むのか。贖罪の念があるなら原作準拠のリメイクでも作ってあげろと言いたい。そういう気持ちがあるなら、である。

本作は再放送が全くと言って良いほどない無いし、また、酷な言い方だが「再放送されるほどの価値もほぼ無い」本作だが、音楽と作画の品質だけでも確かめるために本作を確かめるのは無駄ではないだろう。せめて1話だけでも。

(スタジオ)ディーン(DEEN)はその後「ひぐらし」で私個人からの信用を全面的に回復した。当時、指示を受けた制作スタッフに責はない。となると、当時の責任プロデューサーや現場の最高責任者である監督の汚名返上が望まれるがどうだろうか。
「うる星」で名をはせた巨匠に「汚名を雪(そそ)げ」と言うのも不躾極まりないのは十二分、いや億ニ千分にも承知だが才能がある人物だからこそ、この失敗を再度見つめなおして欲しいのである。

22年の鬱積した思いを書かせて頂いた。「かみしばい」が見たいのではない。

アニメが見たいのです。

ご拝読感謝。


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