もしも、こんなアンパンマンが放送されたら・・見る?

precented by アルフ

 雨が降り続き鬱蒼とした天気が続く。まるで誰かの心を表したかのような曇天が空に広がる。この雨はいつ止むのだろうか。本当に止むのだろうか・・・。

 「嫌だ、もう戦うのは嫌なんだ!」
 泣き叫ぶような声が建物中を震わせる。

 「勝手に正義の味方なんて決めつけてバイキンマンと戦えなんて勝手過ぎるよ!」

 パンの様な丸い頭部に赤いマントとスーツらしき物をつけた不思議な生き物が憤りを吐くように叫ぶ。眼前には白いコック帽子と作業着を着た恰幅(かっぷく)の良い髭面の中年の男が悪鬼の様な表情で”パン頭”の生物を鋭く睨みつける。

 「お前以外に変わりが居ない。良いから黙って行け」

 そう言い放つと”パン頭”のマントを掴み外に連れ出そうとする。必死に抵抗する”パン頭”が泣き叫びながら抵抗する。すると中年の隣にいた小柄で同じくコック帽をつけた人物が口を挟む。

 「お前しか出来る奴が居ないんだ、黙って行きなさい。それとも粉に戻りたいの?いいからジャムの指示通りに行け!」

 そう言い放つと”パン頭”の背中を蹴り飛ばした。「”うぐぅ”」と嗚咽をあげる”パン頭”が地面に伏せる。小柄な人物から”ジャム”と呼ばれた男は『蹴るのはやめとけ』と小柄な人物を諫める。

 「酷いよバタコさん・・・」

 ”パン頭”はヨロヨロと起き上がると”バタコ”と呼んだ人物に対し懇願にも似た視線を送る。まるで助けを求める様に。

 「そんな顔をしても無駄。お前は正義のヒーローなんだ、その役目を果たせば良いんだよ。バイキンマンの脅威は確実にこの世界に拡充して来ている。おめえが腹決めて敵地まで飛んで戦わなきゃ世界が終わるんだよ。さあ、つべこべ言わず黙って行きな!」

 ”バタコ”と呼ばれた人物は”パン頭”に「ペッ」っと唾を吐きかけると煙突を指さし飛び立つように促した。隣にいた犬も呼応するかのように凶暴に”パン頭”に対し吼え続ける。

 刹那、別の”パン頭”が煙突から入り込んできた。細長くて口がギザギザしているのが特徴的だ。どうやらここにいる”パン頭”の仲間らしき存在の様だ。

 「誰かと思えばカレーパンマンか・・・丁度良い、この根性無しを外に連れ出してくれ。さっきから頭を抱えて震えてるだけで一向に出て行こうとしない。本当に使えない能無しだよ・・全く」

 ジャムは”カレーパンマン”と呼んだ男に”パン頭”を連れ出す様に頼み込む。それを聞いたカレーパンマンは虫けらでも観るような視線を”パン頭”にぶつける。

 「チッ・・本当こいつは根性なさ過ぎだろ。一層、お前なんか居なくなれば清々するのに・・・しゃあねえな、ホラいくぞこのヘタレ野郎。お前みたいなやつでも一応ヒーローらしいからな」

 カレーパンマンは”パン頭”の首根っこを鷲掴みにすると無理やり煙突に押し込もうと試みる。だが「いやだ・・いやだああ」と絶叫しながら”パン頭”は柱にしがみ付き離れない。

 その姿に苛立ちを覚えたのかバタコが”パン頭”の正面に立つと思いっきり殴り飛ばす。勢いよく殴打された”パン頭”は真っすぐに吹っ飛び全身を強く壁にぶつける。

 「てめえいい加減にしろ!お前が行かなきゃ町が世界が滅びるんだよ。さっきからナヨナヨと弱音ばかり吐きやがって。見てるだけで吐き気を覚えるわ。このクズが!」

 バタコは拳をギュッと握ると”パン頭”に再び近づき拳を突き出そうとするがジャムに制止される。

 「その辺にしとけバタコ。顔をぐちゃぐちゃにされたらまた焼き直しだ。最近は小麦粉の単価も上昇しているし燃料のマキ代も馬鹿に成らない。このヘタレにこれ以上の余計な費用はかけたくない」

 ”チッ・・仕方ねえ。まあ、オジキがそういうなら”・・とバタコは不服そうに拳を収めた。一方、”パン頭”はガクガクと子ウサギの様に震えている。

 「いいぜ、お前が戦わないなら俺や食パンマンだけで決戦を挑む。でも、お前はそれで良いのか?後悔はしないのか?皆が力を合わせてバイキンマンに立ち向かおうとしているのに手前はでけえ頭抱えて震えて逃げてるだけで良いのか?少しは正義心は湧いてこないのか?」

 カレーパンマンは冷酷な口調で”パン頭”に問いかける。まるで尋問するかのような口ぶりだ。

 「・・もう、良い。今のこいつに何を言っても無駄な様だ。こんな腑抜けで臆病者だとは私も思わなかったよ。こんな奴を作り出すんじゃ無かった・・私の心は後悔で溢れ出さんばかりだよ。悪いがカレーパンマン、食パンマン達を連れお前たちだけで行ってくれるか?」

 ジャムは呆れ果てたかのような口調でカレーパンマンに告げる。同時に震えあがる”パン頭”を侮蔑するかのような視線で見下ろす。そこには愛情や慈愛などと言った感情は一切存在しない。ただ、ひたすらに深まる憎悪。凍り付くような視線が”パン頭”に対し全員から突きつけられる。

 「なんで・・なんで・・・そんな目で見るの?勝手に作り出して勝手に正義のヒーローに仕立て上げられたボクには何の権利も無いの?ボクはただ戦う為だけに生み出された人形なの?ねえ、答えてよ!」

 ”パン頭”の問いに答える事は無くジャムとバタコはパン作りの作業を始め、カレーパンマンは侮蔑の目線をぶつけながら工場から出て行った。1人取り残された”パン頭”は頭を抱え涙を延々と流す。

 ここはとある世界に存在するパン工場。ここには自分自身の存在に懐疑的になっている”生物”が居る。
 生きたパンとして生まれ、強制的に正義の味方として悪の首魁バイキンマンとの戦闘とその討伐を強要された哀れな人工生命体。
 みんなの為、町の為、世界の為に只管わが身を犠牲にしろと運命を決められた
 「ロンリーヒーロー”パン頭”」

その名を「アンパンマン」と言う・・・。



※一部、誤字・脱字・文章ミスがありましたので修正しました(12月25日付)

おことわり
(1)作中ではジャムおじさんやバタコさんは便宜上「人」となっていますが公式設定は「妖精のような存在」です。
(2)「アンパンマンの胸ぐらって掴めるの?」と思われた方も居るとは思いますが原作やアニメと同様に「そういう事も出来る・・」事にしておいて下さい。
(3)バタコさんの殊更の口の悪さや暴力的な表現は当作品上の演出です。ご了承ください。
(4)誤字・脱字は見つけ次第修正します。寛大に見て下さい。


            ちょこっとあとがき(興味がある方だけどうぞ)

本作は言うまでもなくアンパンマンの2次創作ですが1つだけ大きなテーマをもって書きました。それは「こんな駄目ダメ過ぎなアンパンマン」をテレビや映画館で流せますか?という
作品製作者へのメッセージです。
「これはこれで興味深い」と好意的に思って頂いた方も居られるかと思いますが、私の狙いは「庵〇監督風味に書くとこうなるんですよ?でも、〇ヴァはどんなに主人公たちがヘタレでも平気で(映画とか)放送してるんだからアンパンマンがこうなっても流せますよね?」というちょっとした挑戦的な2次創作でもあります。
「エ〇ァはああ言う作風だから良いけど、アンパンマンは設定や対象が違うから・・」では言い分が弱いと思います。エヴ〇だって小さなお子さんが見るかも知れないでしょ?また、一方的に周りからヒーローにさせられて葛藤が全く無いのは流石に不自然じゃ無いですか?と言うのが私の言い分です。
もし、「悩み苦しんでいるアンパンマンの姿なんてアニメで見たくないでしょ?」とPやD辺りが言うなら「だったら〇ヴァンゲリオンも一緒ですよ。主人公などが異常なまでに悩み苦しんだ挙句に誰もフォローしようとしない”救いようのない作品”なんてテレビ(地上波に限らず)でやられてもただ単に胸糞悪いだけですよ?」と言って差し上げたい。また、「ルパン」や「ルフィー」がテレビサイズで言うなら30分間悩み苦しみ自問自答するだけの回を作れますか?とも問いたいですね。カッコよさが売りのルパンや熱血漢が特徴のルフィーが延々と1人ボッチで悩み苦しむ姿など製作者や放送責任者としてはNGだと思うんです。
ルパンやルフィーはキャラ設定的に駄目だけど、エヴァはああいう作風だから良いんです・・などと仰るなら「何が駄目なんですか?ルパンやルフィーだって人間なんだからトコトン悩む可能性はあるでしょ?ただのキャラクターへの偏見じゃないですか?」と言いたい。だったら、エヴァに対しても「この表現はやりすぎです!修正できないならうちでは流せません!」って強めの事を言うのがPやDの仕事じゃ無いんですか?何でも監督の好き勝手にやらせるのが偉い人の役目じゃないでしょ。
ようはエヴァンゲリオンの表現、もっと言うと庵野氏の作品に対してだけ表現の規制が異様に緩いと思うんです。映画館も然りで何でプリキュアシリーズと旧エヴァが同じ「全年齢向け」なのかが理解できません。PG12所かR15がついてもオカシク無い。これは庵野氏に対する依怙贔屓があると見られても仕方なく無いですか?
今回はアンパンマンを引き合いに出させて貰いました。「流石にこんなアンパンマンは子供にみせられないな」と思う方も居たでしょう。中には「こんなのアンパンマンじゃねえよ」と思われた方も居たかも知れません。
だから、放送や映画配給しても流す際は倫理上・道徳上・精神衛生上問題が無いレベルまで修正(または年齢制限)していると思うんです。監督や脚本家のやりたい放題をさせたいなら「商業じゃなく”同人作品”でどうぞご自由に配布して下さい」と言ってあげるべきでは無いでしょうか。
「何でもかんでも金儲けになるからって好き放題やって言い訳じゃないでしょ?」と主張したかったのです。
取り分け、テレビは「何の年齢制限規定」もありません。映画は一応、4段階(全年齢・PG12・R15・R18)の規制があるしネットも18禁サイトには「あなたは18歳以上ですか?」という年齢確認が入ります。任意ですが一定のサイトしか見れないペアレンタルロックもかけれます。ゲームでも全年齢~18歳以上の4段階の規制があります。が、テレビは「まさかこの時間帯はティーンやキッズは見ないだろう、親が見せないだろう」という視聴者側の自主規制を「期待しているだけ」に過ぎません。そんな甘々の緩々の媒体でグロ、精神上よくない作品を流されたら堪ったものでは有りません。
だからこそ局や製作者側が先立って規制というか「修正」をかけないと行けないと思うのです。
それでも「大丈夫、十分に対策してる」と自信満々に仰るならこの「しん・アンパンマン」を是非、ご製作いただき堂々と夜7時ないし夜9時に流して欲しいですね。私が書いたという認可さえしてくれれば対価は要求しないので。
あと、庵野作品だけ規制緩々でグロでも自慰シーンでも暴力シーンでも何でもOKとかやめて欲しいですね。他の制作者・監督に対しても不公平。
どうしても流したければビジネスホテルにあるような有料カードを挿入しないと映らない様な特殊チャンネルでどうぞおやりになって下さい。
何十年来と積年溜まっていた「作品を管理・管轄する側への疑問・提言」を今回は思い切って書かせて頂きました。
なんか「ちょこっと」のつもりが長くなってしまいました。その点、お詫びします。
最後に、書きませんでしたがこの話のオチはアンパンマンの「夢の中で見た悪夢の一場面」でした(夢落ちかよ)・・・アンパンマンって寝るっけ?まあ、いいか。